[on]　　

インセプション

　主人公コブ（デカプリオ）は、相手が眠っている間の潜在意識に潜入し、
相手の持っている情報を盗むという産業情報スパイである。
　彼は、最愛の妻とともに夢の世界をトリップしているうちに、
永遠のリアリティーを体験する世界を創造する。
最愛の妻との永遠のリアリティーの世界・・・。
コブは、ひそかに相手に知られずに、ある情報を相手の潜在意識に植え込み、
その情報が種になって自然に芽生えるようになり、
その人の人生そのものを変化させてしまうスキル（インセプション）を持つようになった。　
　彼は、競合企業の破たんを目論む日本企業のドン、サイトー（渡辺謙）から、
相手企業の次期後継者がその企業が崩壊するような情報をインセプションするよう依頼される。
　この作業は、潜在意識でも非常に深いレベルでの作業が必要とされるために、
第一層から第三層までの夢を構築する。
第一層から順に、相手を巻き込んだ夢の共有世界に入り、
第三層で相手の深層心理に決定的な情報を植え付ける。
　チベット仏教の密教に、ゾクチェンという深い瞑想の技法がある。
そこで説かれている人間の意識には六つの階層がある。
　①肉体レベルで生きている意識的存在、
②肉体的に死んでしまっているがまだ肉体レベルの世界に存在している意識的存在
（死を本当に認知せず執着している期間）、
③それを超えてより広く包括的で高度に発達している意識的存在、
④ある極点を超えられずに肉体的存在への再生に向かうプロセスを通っている意識的存在、
⑤夢の意識体験、
⑥瞑想状態の意識、である。
　①の肉体内に閉じ込められている意識体は、
肉体がもつ情報処理能力（パソコンでいうCPU）が低いために、
非常な難儀を伴う。生まれてからこの肉体世界に慣れるまで時間がかかる。
すべてを忘れて一からやり直さなければならない。
外界のノイズに悩まされる。物質的な執着が生まれるために苦しむ。
　①の意識存在以外の意識レベルは、肉体の制限がないために、情報処理速度が非常に速い。
だからこの映画では、肉体レベルの数分間という時間が、第一層では数時間、
第二層では数カ月、第三層では10年間という体験内容になる。
　これをお読みの方に想像していいただきたい。
ホンの数分間の夢でどれだけの世界を旅しているか思い出して欲しい。
　この映画では、想像の限りをつくした永遠のリアリティーを体験できる魅力の
虜になった主人公は、妻に対してある過ちをおかす。
　そして今の自分にとって本当のリアリティーとは何か、を最後に体験する。
　①から⑥までの世界は、その世界ごとにすべてリアルである。
そして、⑥の瞑想の行為によって本当に覚醒すれば、
すべてがそのままにリアルであることを知り、達成され、光の中に帰還する。
　しかし、何ゆえに肉体としての存在を自分は選んでいるのか・・・。
あるいはかつて肉体の世界に入ることを選び、あるは永劫に選び続けるのか・・。
　この映画の最後に流れた曲。映画の中で使われていた、グランディングの曲でした。さすが・・。